『柱が見た揺らぎの風景』

コラージュ0
どこかのビルの一室。
私はまだここにいない
床はまだ冷たく、作業員が行き来し、
どこか引っ越す住人の荷物がまだ積み上がっている。
私はまだ、この部屋に居場所を持たない。

コラージュ1
部屋に差し込む光が霞む。少し雲行きが怪しくなってきた。
私は、自分がここに存在している理由を探し始めたが、
その答えは、見つからない。
私はもう1本の柱を見つめ、その柱もこちらを見た。
互いが自分の存在の揺らぎを問う。
私はカメラのレンズ越しにその揺らぎを捉えようとするが、
像はすぐに霞んでしまう。

コラージュ2
新しく住人が引っ越してきた。
住人は色鮮やかな椅子を置き、
背の観葉植物を据えた。
空気が柔らかく変化し、揺らぐ
奥にはいつの間にかバスルームができている。
家具と植物とバスルームが
部屋の中に見えない秩序をつくり始める。

コラージュ3
ある朝、目を覚ますと天井が消え、
私は空の下に立っていた。
ここはどこなのだろう。奇妙な動物がこちらをのぞいている。
私の周囲では女性が周りを泳いでいる。
今までなかったどこかへと続く廊下がある。
私はどこに迷い込んでしまったのだろうか。

コラージュ4
植物が生い茂り、魚たちが泳いでいる。
窓の外へ橋が延び、二匹のアヒルが渡っていく。
遠くには都市が見える。
私はその変化を受け止めながら、
ただ黙って立ち続けている。
その静けさの中で、
また新たな風景が揺らぐのを見守っている
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『コラージュと共に追う理想』
ビルの一室を改修するプロジェクトである。空間構成はモジュール化された複数の部屋の連続の中に、一室だけ2本の柱が挿入されているという点である。この2本の柱は、荷重を負担する構造体ではなく、空間を分節し、視線や動線を制御する役割を果たしていた。
私はこのプロジェクトを遡り、5枚のコラージュと詩を制作した。それぞれのコラージュでは、必然的に想起される現実と、完全にフィクショナルな場面とを連続的に接続する試みを行なっている。5枚のコラージュと詩は、空間の秩序が揺らぐ風景を表現している。コラージュを建築手法に多用しているポルトガルの建築集団Falaは、建築の構造的な前提や既存の設計手法に従うのではなく、荷重や機能、物の秩序を意図的に錯乱させ、重力や色彩感覚も含めた建築の常識を再編することで、それらの「重み」が一時的に取り払われることに注目している。
できれば「構造物」の重みを一時的にせよ消し去りたい。…中略…旧来の家族・社会構造にも頼れず、さりとてコンテクストに従順でもいられず、まして既存のレシピをコピペするわけにもいかない。こうして練られた案は、それをはじめて見る者にはどうしても違和感を与えるだろうし、…中略…いかにも荷重を支えるかに見えて現実には宙に浮いていたり、人目につかないようでいて実は外から丸見えだったり、機能的には無駄なはずの空間が最も広かったり、動物や排水管が主役になったり、…中略…重力の表現や色彩のセンスが馴染みのないものだったり。物のヒエラルキーが入れ替わったり機能しなかったり。
(a+u_2023年10月号_特集fala_p.29)
コラージュ3のように荷重を支えているように見えるものが、実際は水面に浮くことができるかもしれない(実際は2つの白い柱は構造的に働いていない)。コラージュ4のように生物や植物が主役になることで、空間構成の背景は退き、風景の主役が再編される。これらの場面は、私たちが日常的に認識している風景とは異なる感覚を提示し、建築の「重さ」の程度が変化する瞬間を示している。
現実では柱の存在は必然的なものであったが、コラージュによって主要な要素は増え続け、やがて柱は床に無造作に置かれた物と同様に、その意味が曖昧となった。コラージュはビルのモジュールシステムを脆弱な構造へと変容させ、同時に、この空間にピリオドを打つかのように新たな空間構築を試みる契機となった。それは、プロジェクトが本来到達すべきであった地点を、別のかたちで実現した結果であると言える。 2本の柱は、物理的には変わらぬ位置に立ちながら、意味的には幾度も揺らぎ、最終的に空間全体を揺らぎの中へと導いた。
私はコラージュが描く対象は2つ存在すると考えている。1つは、人が見て、人から見られることも可能なもの。もう1つは、夢や幻想のような、人が実際に見ておらず、人から見られることも不可能なもの。
極端に言えば、体験が可能なものと体験が不可能なものである。しかし、それらがつながる瞬間がある。 それは直接的に受け取るのではなくイデア化する、内在性=見えないものを見ることに主体を置くことである。空間という被覆は私たちを守り、時には追い出した。コラージュは追い出された先の出来事も描き続けることができる。コラージュは無意識へと走る。見えている現実から超越し、非物質的な理想へと近づいていこうとする。コラージュによって喪、追悼の作業を行う。そこで未だ現実には現れていないものに約束する本来性、すなわちあるべき姿を『Re study』によって再び形成することを試みるのである。
DATE_ 2025.03-2025.08
PROJECT_ Room i
LOCATION_ Kyoto
DESIGN_ Shunsuke Kimura, Mariko Kodera, Yuta Yoshihara
DRAWINGS_ Yuta Yoshihara
POEM / TEXT_ Yuta Yoshihara
DIRECTION_ Shunsuke Kimura